弓のように体をしならせて、ぐいっとペダルに力を込める。
身長160cmにも満たない、痩せた小さな老人の背中からは、
過酷な日々の生活が落とす影が見えた。
もうもうと舞うホコリと排気ガスの中を、がたぼこの道路を縫うように、
時には大声を上げ通行人と怒鳴りあいながら、のろのろとリキシャは進む。
距離にして約3キロ、40分の道のりを走り抜けて、
宿の前に着くころには、リキシャワーラーの額に汗が滲む。
たった20ルピー(約47円)わずかな金を稼いで糊口をしのぐために、
彼らはこうして汗を流す。
この男には父も母も兄弟もない。
嫁を持ったこともないので、もちろん子供もいない。
天涯孤独の身である。
彼の仕事は1杯10ルピー(約23円)のジュース売り。
この屋台一台が財産の全てで、5匹の犬と路上で暮らしている。
一日の上がりは50ルピー(約119円)ほどらしい。
次の朝、その金でパンとミルクを買い、犬達と一緒に食べると稼ぎが消えると笑う。
写真を撮ってくれと言うので何枚か撮ってやると、
金は要らないからオレのジュースを一杯飲んでいけと言う。
礼だと言って、屋台の小さな引き出しの奥に大事そうにしまっていた、
小さなガネーシャの置物を持っていけと言う。
もちろんそれは丁寧に断ったが、毎朝きちんと金を払い、
彼の屋台で飲むジュースから一日が始まりそうな気がした。