数年前に仕入れで訪れたハノイの市場での一枚。
ドンスアン市場だかハンザ市場だか、
それとも名もないような小さな市場だったか、もう忘れてしまったが、
市場の人ごみと喧騒を避けるように、ひっそりと何年も前からそこで、
私がやってくるのを待っていたかのような空間。
今日のメルマガのトップにも使ったが結構お気に入りの一枚だ。
カメラはそのころだからコンデジの安いやつ。
その瞬間そのタイミングでないと撮れない写真というのは確かにあって、
この一枚もそんな偶然が重なってカメラに収めることが出来た。
長いこと仕入れでアジアの市場を歩いていると、
市場の雰囲気というか空気で、そこに自分が欲しい商材があるかどうか、
ある程度カンの様なもので分かるようなる。
ここの市場は特に目新しいものもなく、
どんなに歩き回っても面白い商材は見つからなかった。
そんな昼下がり、ほとんど諦めかけた時に偶然出会ったアジアの風景。
疲れた身体で階段を上り、二階の通路をひとつ右に折れた所にその空間があった。
カメラは2度構えた。入り口から男を見下ろす角度で1度。
それから5、6歩近づいて初めてシャッターを押した。
もしかするとカメラの音や空気の動きで、男が薄く目を開けたかも知れない。
それとも強いアジアの日差しに疲れ、硬く目を瞑ったままだったかもしれない。
不思議なもので、シャッターを押した後のことは何も覚えていない。
撮る前の記憶があるだけだ。
そして階段を上っている時の「何かに出会えそうな予感」だけは、
今でも感覚として身体の何処かに眠っている。